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日常のトピ

たまにどヘタ漫画

カレー対ハヤシライスpart2

若気の至り

 

前回の続きです。

 

僕は今、空にいる。命が絶えて天国にいるとかそういうのではない。もう少し生きさせてくれぃ。「脇がかゆい」を後にしてから、JALのデリー便を予約してビザを取得し、パスポートを暗がりから明るみに出し、トラベラーズチェック(二十万円分)を財布に忍ばせ、ボストンバッグの中に着替えや洗面用具を入れたら、もう何もやることがなくなった。仕方がないので、「踊るマハラジャ」を鑑賞した。ムトゥ、いい男である。

 

日本を発つ前日に、飼っている猫を、友人の兼坂(「んねざか」と読む)君に預かってもらいに行った。彼は快く引き受けてくれた。彼の名前は非常に珍しい。多くの人は、ゆっくりと噛み含めるようにして、「ん・ね・ざ・かくん」と発音するのだが、それも幼児を相手にしているようで不自然だ。なので僕は、最初から彼の名前を発音することを諦めて、「めだか君」と読んでいる。

 

最初は彼も、「あれ?オレ、めだかだったっけ?」と戸惑って、僕がおやつを食べている隣でプランクトンを食べていたりもしたのだが、ある程度時間が経過すると、「めだか君」と呼ばれることに対して、なにも感じなくなっていった。そして、四季の移ろいも感じなくなっていった。これはマズイぞ。

 

「もしよかったら、お土産を買ってきてくれると嬉しいな」とめだか君は言った。では、彼に問いたいが、僕が「もしよくなかった場合」には、どうするのだろうか。ようやくめだかとしての生活に慣れてきたのに、「お土産が欲しい」という一念に取り憑かれたために、めだかとしての尊厳を損なってしまっては、元も子もないだろう。めだかよ、悪いようにはしないから、おとなしく待っていなさい。

 

なんやかんやあって、僕はインディラ・ガンディー国際空港に着いた。付近は、友人を出迎えるために待つ人や、ツアーガイドとその後ろに付き従う観光客の群れでごった返していた。気温は40度を超えている。しゃれにならない暑さだ。

 

僕のとりあえずの目的地は、ガンジス川だ。空港から少し歩き、バスでニューデリー駅へ向かう。そこから夜行列車に乗って、ベナレス(ガンジス川)へ行く。ニューデリー駅の入り口付近には、まだら模様の中型犬が横たわっていた。駅構内は、様々な人間でごった返している。僕は、二階にある外国人専用の切符売り場に向かった。構内は意外に綺麗で、地べたに腰を下ろして談笑するグループや、腕組みをしながら時刻表をじっと睨んでいる人、また、時刻表を睨みすぎたために時刻表の機嫌を損ね、時刻表から、「時刻表特製・炎の鉄槌~確かな愛を込めて~」を喰らっている人もいた。ご愁傷様です。

 

僕は、辛気くさい階段をのぼり、「INTERNATIONAL TOURIST BUREAU」と書かれた無機質な看板がかかっている外国人専用の切符売り場に足を踏み入れた。中は満席で、入り口から向かって右側の席には、金髪の女性二人組が空手の型を練習していた。「ここにも空手が」と僕は満足げに、そして悩ましげに呟いた。

 

「RESERVATION FORM」の台から用紙を一枚摘まみ出し、必要事項をさっと埋めて、窓口へ提出した。切符売り場の案内看板は全て英語で書かれているので、僕は頭の中にかすかに残っている英語汁を搾り出し、なんとか切り抜けた。二等寝台列車のチケットを一枚受け取り、階段を下りてホームへ向かった。

 

ホームは閑散としていた。オレンジがかった暮れゆく空が、ホームの屋根と車体の隙間から顔を覗かせている。列車が到着するまでに少し時間があったので、丸太を担ぎながら漬け物石に適したサイズの石を探す原人のマネをして時間をつぶした。やがて列車が到着したので、僕は意気揚々と車内に乗り込んだ。

 

追記 あらためて読んでみたら、結末があまりにもショボすぎるので、このへんにしておきます。これを書いた当時は「これ、面白いんじゃないか!?」と舞い上がっていたのですが、今冷静になって読んでみると、「そこまでじゃないよなぁ」としみじみ思います。それでは今回はこのへんで。

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