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日常のトピ

たまにどヘタ漫画

『蠕動で渉れ、汚泥の川を』  西村賢太

 

白衣を着てコック帽をかぶった北町貫多は、はじめての飲食店でのアルバイトにひそかな期待を抱いていた。日払いから月払いへ、そしてまっとうな生活へと己を変えて、ついでに恋人も…。労働、肉欲、そして文学への思い。善だの悪だのを超越した貫多17歳の“生きるため”の行状記!(「BOOK」データベースより)

 

「貫多シリーズ」の最新作です。本作は、貫多が17歳の頃の物語であり、御徒町の洋食屋が舞台になっています。「飲食業に就きたい」という希望をかねてから抱いていた貫多にとって、「チェーン店のような堅苦しさが少ない、個人経営の飲食店で働くこと」は夢のまた夢でした。その夢が叶って、夢を堪能した後に、自らの手で夢をぶち壊すまでを描いた作品です。

 

これは本作に限らず、貫多シリーズ全般についても言えることですが、「貫多がいつ暴発するか」が貫多シリーズの最大の肝です。『水戸黄門』の印籠や、『遠山の金さん』の桜吹雪と同様に、「北町貫多の暴発」を今か今かと待ちわびながら、読者は物語を読み進めていきます。そのため、貫多シリーズに慣れ親しんでいる人は、「暴発の予兆」が見えただけで、カタルシスを感じるようになります。これほどまでに破滅が望まれている主人公というのも珍しいです。もはや、破滅が様式美になっています。

 

本作の中で最も印象に残ったのは、居候している洋食屋の同僚の女性のキュロットのにおいを勝手に嗅いで悶絶するシーンです。以下引用します。

「その恐ろしいまでの悪臭は、ベースは明らかに糞である。人糞に豚の腐った臓物を加え、それを経血とお酢とで練り合わせたものを、そのキュロットの股間にひと塗りしてみました、と云った感じの、とんでもなくケタ外れな、最低最悪の臭気である。」

 

他人のロッカーを勝手に開けただけでは飽き足らず、その中に入っていたキュロットのにおいを嗅いで逆上する男の姿は、哀れでもあり、滑稽でもあります。「ただの変態」と言ってしまえばそれまでなのですが、そのように簡単には片付けられない(片付けてしまってはつまらない)のが北町貫多という男なのです。貫多が有する変態性には、一読しただけで中毒になるほどの魅力が備わっています。

 

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