日常のトピ

たまにどヘタ漫画

『ガセネッタ&シモネッタ』 米原万里

 

本書は、ロシア語通訳者であり作家の米原万里さんによるエッセイ集です。タイトルには「シモネッタ」とありますが、「いわゆる下ネタ」はほとんど収録されていません。そのため、「どぎつい下ネタを読みたい」という方にはお勧めしかねます。この本は、「ガセネタや下ネタを楽しむための本」ではなく、「米原万里さんの知性を愉しむための本」です。

 

本書の中で最も印象に残ったエピソードは、「全てのスピーカーが必ずしも慣用句を正しく用いるとは限らない」というものです。例えば、「今日はどうぞロシア側からクチビルを切って下さい」とスピーカーが発言した場合、「クチビル」を「口火」に置き換えて修復することが可能です。

 

しかしながら、「百見は一聞にしかず」とスピーカーが発言した場合、元の慣用句である「百聞は一見にしかず(人から何度も話を聞くよりも、実際に自分の目で一度見るほうが確かであり、よくわかる)」の本来の意味ではなく、「こんなところに来なければ良かった」という正反対の意味でスピーカーは発言したのではないかと勘ぐってしまう、というエピソードはとても興味深かったです。

 

上記のようなエピソードを読むと、「わざと不明瞭な言葉で話したり、意図的に言い間違いをしたりすることによって、通訳者を試す人も少なくないんだろうなぁ」としみじみと思います。通訳者に限らず、全ての中間業者は、「板挟みの圧」によって苦しめられています。米原万里さんは、その「圧」を極上の笑いに転化させる希有な才能の持ち主でした。あらためてご冥福をお祈りいたします。

 

広告を非表示にする