日常のトピ

たまにどヘタ漫画

『嘘つきアーニャの真っ赤な真実』 米原万里

 

1960年、小学校4年生のマリは、プラハソビエト学校にいた。男の見極め方やセックスのことを教えてくれるのは、ギリシャ人のリッツァ。ルーマニア人のアーニャは、どうしようもない嘘つきのまま皆に愛されていて、クラス1の優等生はユーゴスラビア人のヤスミンカだ。30年後、激動する東欧で音信の途絶えた彼女たちと、ようやく再会を果たしたマリが遭遇した真実とは―。(「BOOK」データベースより)

 

本書は、ロシア語通訳者の米原万里さんが、在プラハソビエト学校に通っていた時代(1959~64年)に出会った親友達を30年ぶりに訪ね歩き、その過程で起こった様々な出来事をエッセイに仕立て上げたものです。普通のエッセイにはない、「生々しすぎるドキュメンタリー性」に強い衝撃を受けました。本書が「大宅壮一ノンフィクション賞」を受賞したのも、むべなるかなという気がします。米原万里さんの代表作の1つです。

 

本書の中で最も印象に残ったのは、超がつくほどの優等生だったヤースナ(ヤスミンカ)のエピソードです。このエピソードの中のヤースナの言葉には、激しく心を揺さぶられました。以下引用します。

 

「この戦争が始まって以来、そう、もう五年間、私は、家具を一つも買っていないの。食器も。コップ一つさえ買っていない。店で素敵なのを見つけて、買おうかなと一瞬だけ思う。でも次の瞬間は、こんなもの買っても壊されたときに失う悲しみが増えるだけだ、っていう思いが被さってきて、買いたい気持ちは雲散霧消してしまうの。それよりも、明日にも一家皆殺しになってしまうかもしれないって」

 

目と鼻の先に戦地がある場所で、粛々と生きる人間の心情が淡々とつづられており、「平穏というものの尊さ」を実感せずにはいられませんでした。「30年分の真実」は、一読しただけではとても消化しきれません。今後も、折に触れて本書を読み返すことになると思います。とてつもない重量感と途方もない世界観を内包した一冊です。

 

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